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書評

「北沢栄著『官僚社会主義 日本を食い物にする自己増殖システム』」

朝日新聞社2002.11.刊行

『東洋経済』2003.2.8. 69.

 

橋本努

 

 昨年五月の世論調査によれば、中央省庁の官僚を信頼していないと答えた人は、「どちらかといえば」を合わせて七四%にも上ったという。それもそのはず、官僚たちはいまや国の財政を私物化し、あらゆる改革を骨抜きにしようと躍起になっているからだ。

官を仕切るはずの大臣には実質的な権限がなく、また厳しい結果責任を問われることのない官僚たちは組織権限の拡大に専心するばかり。そうした現状を剔抉すべく、著者はここ数年に起きた不祥事事件をつぶさに検証し、合わせて七つの改革案を提示する。

 例えばキャリア官僚の天下りを防ぐために、「早期勧奨退職制度」を廃止する。現在三七ある国の特別会計の経理を公開した上で、これを一般会計化する。官僚の任務を、これまでのように「『省』に関すること全般」とするのではなく、責任の範囲を法で明確に定める。特殊法人および認可法人を全廃する。独立行政法人への天下りを内閣によって制限する、等々。どれも説得力のある提案だ。官僚組織が肥大化するメカニズムを制御するための、いわばラディカルな青写真である。

現在、公共事業の建設費は、市場の実勢価格よりも三割から四割も高いと言われる。実際に工事を受注したゼネコンは、それを下請けや孫請けに流してピンハネし、その分を政治献金や裏金に用いている。また例えば、岩手県は東京都よりも公共工事労務単価が十二%も高く、釧路の生コン相場は札幌のそれよりも二・九倍も高い、という不合理がある。こうした不正や非効率を防ぐためにも、第三者機関を設け、また法人業務をすべて新型NPO組織に任せるべきだ、というのが著者の主張である。いまや行政を批判的に見ることは、国民の義務でさえある。本書を読んで一気に理解が深まった。

橋本努(北海道大助教授)